制御工学 ロバスト制御

G. ロバスト制御とは

ロバスト制御とは、モデル誤差や外乱があっても「壊れにくい」制御系を設計するための体系である。 「モデル通りならうまく動く」だけでなく、 パラメータがずれても・外乱が変動しても安定で性能が保たれることを重視する。

G1. モデル不確かさとロバスト安定性

(1) なぜモデル不確かさを考えるか

同じ装置でもロットや温度・経年でパラメータが変動する。 プラント \(P(s)\) の名目モデル \(P_0(s)\) のみを前提に設計すると、 実機では発振したり性能が著しく低下する場合がある。

(2) 不確かさモデルの例

(3) ロバスト安定性(Robust Stability)

「許容されるすべての不確かさ \(\Delta\) に対して閉ループ系が安定である」こと。 H∞制御や μ解析では、これを数学的に評価・保証する。

G2. 感度関数と相補感度関数

(1) 基本定義

一巡伝達関数 \(L(s)=P(s)C(s)\)(プラント P とコントローラ C の積)に対して、

感度関数: \[ S(s) = \frac{1}{1+L(s)} \]

相補感度関数: \[ T(s) = \frac{L(s)}{1+L(s)} \]

(2) 役割

(3) 典型的な設計方針

G3. 重み付けと周波数整形

(1) 重み付けの考え方

「どの周波数帯で性能を重視するか」を、重み関数 \(W_S(s), W_T(s)\) で表す:

(2) 典型的な条件(H∞ 設計で使う形)

\[ \bigl\| W_S(s) S(s) \bigr\|_\infty < 1,\quad \bigl\| W_T(s) T(s) \bigr\|_\infty < 1 \]

ここで \(\|\cdot\|_\infty\) は H∞ ノルム(後述)。

(3) 実務的な意味

G4. H∞ ノルムとロバスト制御の評価

(1) H∞ ノルムの定義

伝達行列 \(G(s)\) に対して、H∞ ノルムは

\[ \|G\|_\infty = \sup_{\omega\in\mathbb{R}} \bar{\sigma}\bigl(G(j\omega)\bigr) \]

ここで \(\bar{\sigma}(\cdot)\) は最大特異値。 SISO 系では \(|G(j\omega)|\) に一致する。

(2) 物理的な意味

(3) H∞ 制御の基本問題

閉ループ系のある伝達関数 \(T_{zw}(s)\)(外乱 w → 性能出力 z)について

\[ \|T_{zw}\|_\infty < \gamma \]

を満たすコントローラを求めるのが H∞ 制御の基本問題。

G5. H∞ 制御の概要

(1) 一般化プラント

プラント \(P(s)\)、重み付け、外乱入力 w、制御入力 u、 性能出力 z、観測出力 y をまとめて「一般化プラント」\(P\) を構成する:

\[ \begin{bmatrix} \dot{x} \\ z \\ y \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} A & B_w & B_u \\ C_z & D_{zw} & D_{zu} \\ C_y & D_{yw} & D_{yu} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x \\ w \\ u \end{bmatrix} \]

(2) 制御器 K(s) の設計

出力 y を用いて u を決定するフィードバックを設計し、 ループを閉じたときの \(T_{zw}\) の H∞ ノルムを最小化する。

(3) 実務的なポイント

G6. μ解析(構造化特異値)のさわり

(1) 目的

H∞ 制御は「全ての不確かさを一つの塊」として扱うが、 実際の不確かさはパラメータごとに構造をもっている。 μ解析(構造化特異値)は、この構造を考慮したロバスト解析の手法。

(2) 考え方(超ざっくり)

「不確かさブロック」と「名目ループ」とを結合したブロック線図を考え、 不確かさの大きさ(ノルム)が 1 のときに 閉ループが不安定になるかどうかを評価する。

(3) 実務での位置づけ

G7. ロバスト制御の設計フロー(概要)

  1. 名目プラント \(P_0(s)\) を同定・モデル化する
  2. パラメータ変動や周波数特性から不確かさモデル(乗法・加法)を仮定する
  3. 性能要求(外乱抑制・ノイズ抑制・帯域など)を 重み関数 \(W_S,W_T,W_U\) に翻訳する
  4. H∞ 設計や μ解析によりロバスト安定性・性能を評価しつつコントローラ \(C(s)\) を求める
  5. シミュレーション → 実プラント試験 → パラメータ調整

PID や LQR だけでは足りない「モデルずれに強い制御」を求める場合、 ロバスト制御の考え方が非常に有効になる。

参考URL

 

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