経路積分

1. 経路積分とはなにか:振幅の「全経路和」表現

(1) Feynman のアイデア

古典力学では、粒子は作用 \(S = \int L\,dt\) を極小(停留)にする軌道を通る。 一方、量子力学では、初期状態 \(|x_i, t_i\rangle\) から最終状態 \(|x_f, t_f\rangle\) への遷移振幅 \[ K(x_f, t_f; x_i, t_i) = \langle x_f, t_f \mid x_i, t_i \rangle \] を、あらゆる経路の寄与の「和」として表す: \[ K(x_f, t_f; x_i, t_i) = \int_{x(t_i)=x_i}^{x(t_f)=x_f} \mathcal{D}x(t)\, \exp\left\{ \frac{i}{\hbar} S[x(t)] \right\}. \]

(2) 古典極限との関係

\(\hbar \to 0\) の極限では、位相が急激に振動するため 作用が停留する経路(古典軌道)の寄与が支配的となる。 これが半古典近似(stationary phase approximation)である。

(3) 経路積分の意味

「ありうる全ての軌道」 \(x(t)\) に対して重み \(\exp\{(i/\hbar)S[x]\}\) をつけて足し合わせることで、 量子力学的な遷移振幅を再現できる。

2. 量子力学の経路積分:時間分割とガウス積分

(1) 時間分割と積分表現

時間区間を \(N\) 個に分割し、完全系 \(\int dx_k\, |x_k\rangle\langle x_k|=1\) を挿入すると、 遷移振幅は \[ K(x_f, t_f; x_i, t_i) = \lim_{N\to\infty} \int \prod_{k=1}^{N-1} dx_k \prod_{k=0}^{N-1} \langle x_{k+1}|e^{-iH\Delta t/\hbar}|x_k\rangle \] の形をとる。 運動量表現も用いて、この極限が形式的に経路積分 \(\int\mathcal{D}x(t)\) になる。

(2) 自由粒子の例

自由粒子 \(L = \tfrac{m}{2}\dot{x}^2\) に対し、 結果としてよく知られた \[ K_{\text{free}} = \sqrt{ \frac{m}{2\pi i\hbar T} } \exp\left[ \frac{i m (x_f - x_i)^2} {2\hbar T} \right], \quad T = t_f - t_i \] が得られる(ガウス積分で計算)。

(3) 調和振動子

調和振動子 \(L = \tfrac{m}{2}\dot{x}^2 - \tfrac{m\omega^2}{2}x^2\) の場合も 経路積分で厳密に計算でき、古典的作用 \(S_{\text{cl}}\) を用いて \[ K_{\text{HO}} \propto \exp\left\{ \frac{i}{\hbar} S_{\text{cl}}[x_{\text{cl}}] \right\} \] の形になる(前因子は \(\sqrt{\sin\omega T}\) のような形)。

3. 半古典近似と最小作用の量子版

(1) 古典経路まわりの展開

経路を \[ x(t) = x_{\text{cl}}(t) + \eta(t) \] と分解し、古典解 \(x_{\text{cl}}(t)\) のまわりで小さな揺らぎ \(\eta(t)\) による展開を行う。

(2) 2 次までの展開

作用を 2 次まで展開すると \[ S[x] = S[x_{\text{cl}}] + \frac{1}{2} \int dt\,dt'\, \eta(t) K(t,t') \eta(t') + \cdots, \] となり、経路積分はガウス型となる。

(3) 半古典近似の物理的意味

\(\hbar\) が小さい極限では、経路積分は主に古典経路の近くの揺らぎに支配される。 これは WKB 近似とも関係する。

4. 場の経路積分:生成汎関数 \(Z[J]\)

(1) スカラー場の経路積分

実スカラー場 \(\phi(x)\) に対し、場の経路積分は \[ Z[0] = \int \mathcal{D}\phi\, \exp\left\{ i\int d^4x\, \mathcal{L}(\phi,\partial\phi) \right\}. \]

(2) 外部源を導入した生成汎関数

相関関数を生成するため、外部源 \(J(x)\) を導入して \[ Z[J] = \int \mathcal{D}\phi\, \exp\left\{ i\int d^4x\, \left[ \mathcal{L}(\phi,\partial\phi) + J(x)\phi(x) \right] \right\} \] と定義する。

(3) 相関関数との関係

\(n\) 点相関関数は \[ \langle 0|T\phi(x_1)\cdots\phi(x_n)|0\rangle = \left. \frac{1}{i^n} \frac{\delta^n Z[J]} {\delta J(x_1)\cdots\delta J(x_n)} \right|_{J=0} \] により、汎関数微分で得られる。

5. 自由場の \(Z[J]\):ガウス積分としての厳密計算

(1) 自由スカラー場のラグランジアン

\[ \mathcal{L}_0 = \frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2 - \frac{1}{2}m^2\phi^2. \] これは \(\phi\) に関して 2 次形式である。

(2) 汎関数ガウス積分

一般のガウス積分 \[ \int d^n x\, \exp\left( -\frac{1}{2} x^T A x + J^T x \right) \propto \exp\left( \frac{1}{2} J^T A^{-1} J \right) \] の無限次元版として、 自由場の \(Z_0[J]\) は \[ Z_0[J] = Z_0[0]\, \exp\left\{ -\frac{i}{2}\int d^4x\,d^4y\, J(x)\Delta_F(x-y)J(y) \right\}, \] と計算できる(\(\Delta_F\):Feynman プロパゲータ)。

(3) 2 点関数の例

\[ \langle 0|T\phi(x)\phi(y)|0\rangle = \Delta_F(x-y) \] が得られ、これが内部線としてフェインマン図に現れる。

6. 相互作用を含む場の経路積分:\(\phi^4\) 理論の例

(1) ラグランジアンと経路積分

\[ \mathcal{L} = \mathcal{L}_0 - \frac{\lambda}{4!}\phi^4. \] 生成汎関数は \[ Z[J] = \int \mathcal{D}\phi\, \exp\left\{ i\int d^4x\, \left[ \mathcal{L}_0 - \frac{\lambda}{4!}\phi^4 + J\phi \right] \right\}. \]

(2) 形式展開

相互作用部分を展開して \[ Z[J] = \exp\left\{ -i\int d^4x\, \frac{\lambda}{4!} \left( \frac{\delta}{i\delta J(x)} \right)^4 \right\} Z_0[J] \] のように記述できる。

(3) フェインマン図との対応

汎関数微分の展開により、頂点・内部線の組み合わせが自動的に現れ、 摂動論におけるフェインマン図の計算と一致する。

7. ゲージ理論の経路積分:Faddeev–Popov 法の概要

(1) ゲージ冗長性の問題

ゲージ理論では、ゲージ変換により物理的に同じ場の構成が多数存在する。 そのまま経路積分を取ると、同じ物理状態を何度も数え上げてしまい、 発散が生じる。

(2) ゲージ固定と FP 決定因子

ゲージ固定条件 \(G[A]=0\) を挿入し、 恒等式 \[ 1 = \int \mathcal{D}\alpha\, \delta(G[A^\alpha])\, \det\left( \frac{\delta G[A^\alpha]}{\delta\alpha} \right) \] を用いることで、ゲージ冗長性を取り除く。 ここで \(\det(\dots)\) が Faddeev–Popov 決定因子であり、 ゴースト場としてラグランジアンに組み込まれる。

(3) BRST 対称性(さわり)

ゴーストとゲージ場を含む拡大した場の理論には BRST 対称性が存在し、 これが繰り込みや非摂動論の解析に重要な役割を果たす。

8. Euclidean 経路積分と統計力学との対応

(1) Wick 回転

実時間 \(t\) を虚時間 \(\tau = it\) に回転する: \[ t \to -i\tau, \quad dt = -i\,d\tau. \] これにより \[ e^{iS} \to e^{-S_E}, \] すなわち Minkowski 作用から Euclidean 作用 \(S_E\) への対応が得られる。

(2) 統計力学との対応

ハミルトニアン \(H\) を持つ系の分配関数は \[ Z(\beta) = \mathrm{Tr}\,e^{-\beta H} \] であるが、これが \[ Z(\beta) = \int_{\text{周期境界条件}} \mathcal{D}\phi(\tau)\, e^{-S_E[\phi]} \] と、虚時間 \(\tau\) に周期 \(\beta = 1/k_B T\) を持つ経路積分に等しい。 ここから統計場の理論が構成される。

(3) シュヴィンガー関数

Euclidean 時間での相関関数(シュヴィンガー関数)は、 続解析により物理的な時間順序相関関数と結びつく。

9. 経路積分と場の量子論のまとめ

参考URL

 

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