量子電磁力学

1. QEDとは:電磁相互作用の量子論

(1) 内容と位置づけ

量子電磁力学(QED)は、 電荷をもつフェルミオン(例:電子、陽電子)と 光子の相互作用を記述する相対論的量子場理論である。 標準模型における U(1) 電磁相互作用の部分にあたる。

(2) 基本的な登場人物

(3) QEDの基本原理

2. ディラック場と電磁場:古典レベルの準備

(1) 自由ディラック場

自由なスピノル場 \(\psi(x)\) のラグランジアンは \[ \mathcal{L}_\text{Dirac} = \bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi, \] であり、オイラー=ラグランジュ方程式から \[ (i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0 \] (ディラック方程式)が得られる。

(2) 自由電磁場(Maxwell場)

電磁4ポテンシャル \(A_\mu(x)\) に対し、 場の強度テンソル \[ F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu \] を定義する。自由電磁場のラグランジアンは \[ \mathcal{L}_\text{EM} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}. \]

(3) 電磁場のゲージ変換

スカラー関数 \(\alpha(x)\) を用いて \[ A_\mu(x) \to A_\mu'(x) = A_\mu(x) + \partial_\mu \alpha(x) \] と変換しても \(\mathcal{L}_\text{EM}\) は不変である(U(1)ゲージ対称性)。

3. QEDラグランジアン:局所 U(1) ゲージ原理

(1) グローバル U(1) から局所 U(1) へ

グローバル変換 \(\psi \to e^{i\alpha}\psi\) は電荷保存に対応する対称性である。 これを \(\alpha \to \alpha(x)\) とした局所変換 \[ \psi(x) \to e^{i e\alpha(x)}\psi(x) \] で理論を不変に保つためには、共変微分 \[ D_\mu = \partial_\mu + i e A_\mu \] を導入する必要がある(最小結合)。

(2) QEDの完全ラグランジアン

以上を組み合わせると、QED のラグランジアン密度は \[ \mathcal{L}_\text{QED} = \bar{\psi}(i\gamma^\mu D_\mu - m)\psi - \frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}, \] となる。これが「電子+光子+相互作用」を記述する基本式である。

(3) ゲージ変換則

\[ \psi(x) \to e^{i e\alpha(x)}\psi(x),\quad \bar{\psi}(x) \to \bar{\psi}(x)e^{-i e\alpha(x)}, \] \[ A_\mu(x) \to A_\mu(x) - \partial_\mu\alpha(x). \] この変換に対して \(\mathcal{L}_\text{QED}\) は不変である。

4. 運動方程式と保存電流

(1) ディラック方程式(電磁場中)

QED ラグランジアンからのオイラー=ラグランジュ方程式は \[ (i\gamma^\mu D_\mu - m)\psi = 0, \quad \bar{\psi}(i\overleftarrow{D}_\mu\gamma^\mu + m) = 0. \]

(2) Maxwell 方程式(電荷源を含む)

\(A_\mu\) に関する変分から \[ \partial_\mu F^{\mu\nu} = e\,\bar{\psi}\gamma^\nu\psi \equiv j^\nu \] が得られる。 右辺は電流密度であり、電荷が電磁場の源になっていることを示す。

(3) 電荷保存(Noether 電流)

グローバル U(1) 対称性に対応する Noether 電流は \[ j^\mu = \bar{\psi}\gamma^\mu\psi \] であり、 \[ \partial_\mu j^\mu = 0 \] によって電荷保存が表現される。

5. ゲージ固定と光子プロパゲータ

(1) Lorenz ゲージとゲージ固定項

経路積分やプロパゲータの計算のためにはゲージ固定が必要である。 例:Lorenz ゲージ条件 \[ \partial_\mu A^\mu = 0 \] を満たすように、ラグランジアンに \[ \mathcal{L}_\text{gf} = -\frac{1}{2\xi}(\partial_\mu A^\mu)^2 \] を加える(\(\xi\):ゲージパラメータ)。

(2) Feynman ゲージ

\(\xi = 1\) としたゲージを Feynman ゲージと呼び、 運動量空間での光子プロパゲータは \[ D_{\mu\nu}(k) = \frac{-i g_{\mu\nu}}{k^2 + i\epsilon} \] の簡単な形をとる。

(3) QEDにおけるゴースト

U(1) では Faddeev–Popov ゴーストは自由場で相互作用しないため、 多くの場合計算には現れない(非可換ゲージ理論では必須)。

6. QEDの Feynman ルール(運動量空間)

(1) 外線の規則(概略)

(2) 内部線のプロパゲータ

(3) 頂点因子

電子・陽電子と光子の相互作用頂点では、 運動量保存のデルタ関数に加え、頂点因子 \[ (-ie)\gamma^\mu \] を割り当てる。

7. 代表的な散乱過程:木レベル計算の例

(1) 電子–電子散乱(Møller 散乱)

プロセス \(e^- e^- \to e^- e^-\)。 2 つの Feynman 図( t チャネル・ u チャネル交換)が寄与し、 スピノル振幅 \(\mathcal{M}\) を計算し \(|\mathcal{M}|^2\) から微分断面積 \(d\sigma/d\Omega\) を求める。

(2) 電子–陽電子散乱(Bhabha 散乱)

\(e^- e^+ \to e^- e^+\)。 s チャネルと t チャネルの 2 図があり、干渉項も含めて計算する。

(3) 電子–光子散乱(Compton 散乱)

\(\gamma e^- \to \gamma e^-\)。 2 つの図(s チャネル・u チャネル)から Klein–Nishina 公式が導かれる。

(4) 対生成・対消滅

\(\gamma\gamma \to e^- e^+\) や \(e^- e^+ \to \mu^- \mu^+\) なども QED の代表例である。

8. ループ補正と繰り込み:自己エネルギー・頂点補正・真空偏極

(1) 電子の自己エネルギー

電子線にループで光子が付く図が自己エネルギーであり、 質量および波動関数の繰り込みを必要とする。

(2) 頂点補正

頂点に光子ループが付く図が頂点補正であり、 有効結合定数(電荷)の繰り込みや異常磁気能率 \(g-2\) に寄与する。

(3) 真空偏極

光子線に電子・陽電子ループが付く図が真空偏極であり、 有効電荷のスケール依存性(走る結合)を生む。

(4) Ward–Takahashi 恒等式

ゲージ不変性から導かれる恒等式 \[ q_\mu \Gamma^\mu(p',p) = S_F^{-1}(p') - S_F^{-1}(p) \] により、電荷の繰り込みが光子–電子頂点と電子自己エネルギーの間で整合的になる。

9. 電荷の繰り込みと「走る結合定数」

(1) 観測される電荷

QED では「裸の電荷」 \(e_0\) は理論内部のパラメータであり、 実際に観測される電荷 \(e\) は繰り込みスキームやエネルギースケールによって異なる。

(2) β関数(概念)

結合定数のスケール依存性は \[ \beta(e) = \mu \frac{d e}{d\mu} \] で特徴づけられ、QED では 1-loop で \(\beta(e) > 0\) となり、 高エネルギーほど有効電荷が大きくなる(Landau pole の存在)。

10. 精密実験:異常磁気能率と Lamb シフト

(1) 電子の異常磁気能率 \(g-2\)

古典・ディラック理論では電子の磁気能率は \(g=2\) だが、 QED の 1-loop 頂点補正により \[ a_e \equiv \frac{g-2}{2} = \frac{\alpha}{2\pi} + \mathcal{O}(\alpha^2) \] が予言され、実験と驚異的な精度で一致する。

(2) Lamb シフト

水素原子の 2S–2P 準位の微妙なエネルギー差(Lamb シフト)は、 電子自己エネルギーや真空偏極など QED 効果により説明される。

11. まとめ:QEDの本質と位置づけ

参考URL

 

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