量子電磁力学(QED)は、 電荷をもつフェルミオン(例:電子、陽電子)と 光子の相互作用を記述する相対論的量子場理論である。 標準模型における U(1) 電磁相互作用の部分にあたる。
自由なスピノル場 \(\psi(x)\) のラグランジアンは \[ \mathcal{L}_\text{Dirac} = \bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi, \] であり、オイラー=ラグランジュ方程式から \[ (i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0 \] (ディラック方程式)が得られる。
電磁4ポテンシャル \(A_\mu(x)\) に対し、 場の強度テンソル \[ F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu \] を定義する。自由電磁場のラグランジアンは \[ \mathcal{L}_\text{EM} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}. \]
スカラー関数 \(\alpha(x)\) を用いて \[ A_\mu(x) \to A_\mu'(x) = A_\mu(x) + \partial_\mu \alpha(x) \] と変換しても \(\mathcal{L}_\text{EM}\) は不変である(U(1)ゲージ対称性)。
グローバル変換 \(\psi \to e^{i\alpha}\psi\) は電荷保存に対応する対称性である。 これを \(\alpha \to \alpha(x)\) とした局所変換 \[ \psi(x) \to e^{i e\alpha(x)}\psi(x) \] で理論を不変に保つためには、共変微分 \[ D_\mu = \partial_\mu + i e A_\mu \] を導入する必要がある(最小結合)。
以上を組み合わせると、QED のラグランジアン密度は \[ \mathcal{L}_\text{QED} = \bar{\psi}(i\gamma^\mu D_\mu - m)\psi - \frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}, \] となる。これが「電子+光子+相互作用」を記述する基本式である。
\[ \psi(x) \to e^{i e\alpha(x)}\psi(x),\quad \bar{\psi}(x) \to \bar{\psi}(x)e^{-i e\alpha(x)}, \] \[ A_\mu(x) \to A_\mu(x) - \partial_\mu\alpha(x). \] この変換に対して \(\mathcal{L}_\text{QED}\) は不変である。
QED ラグランジアンからのオイラー=ラグランジュ方程式は \[ (i\gamma^\mu D_\mu - m)\psi = 0, \quad \bar{\psi}(i\overleftarrow{D}_\mu\gamma^\mu + m) = 0. \]
\(A_\mu\) に関する変分から \[ \partial_\mu F^{\mu\nu} = e\,\bar{\psi}\gamma^\nu\psi \equiv j^\nu \] が得られる。 右辺は電流密度であり、電荷が電磁場の源になっていることを示す。
グローバル U(1) 対称性に対応する Noether 電流は \[ j^\mu = \bar{\psi}\gamma^\mu\psi \] であり、 \[ \partial_\mu j^\mu = 0 \] によって電荷保存が表現される。
経路積分やプロパゲータの計算のためにはゲージ固定が必要である。 例:Lorenz ゲージ条件 \[ \partial_\mu A^\mu = 0 \] を満たすように、ラグランジアンに \[ \mathcal{L}_\text{gf} = -\frac{1}{2\xi}(\partial_\mu A^\mu)^2 \] を加える(\(\xi\):ゲージパラメータ)。
\(\xi = 1\) としたゲージを Feynman ゲージと呼び、 運動量空間での光子プロパゲータは \[ D_{\mu\nu}(k) = \frac{-i g_{\mu\nu}}{k^2 + i\epsilon} \] の簡単な形をとる。
U(1) では Faddeev–Popov ゴーストは自由場で相互作用しないため、 多くの場合計算には現れない(非可換ゲージ理論では必須)。
電子・陽電子と光子の相互作用頂点では、 運動量保存のデルタ関数に加え、頂点因子 \[ (-ie)\gamma^\mu \] を割り当てる。
プロセス \(e^- e^- \to e^- e^-\)。 2 つの Feynman 図( t チャネル・ u チャネル交換)が寄与し、 スピノル振幅 \(\mathcal{M}\) を計算し \(|\mathcal{M}|^2\) から微分断面積 \(d\sigma/d\Omega\) を求める。
\(e^- e^+ \to e^- e^+\)。 s チャネルと t チャネルの 2 図があり、干渉項も含めて計算する。
\(\gamma e^- \to \gamma e^-\)。 2 つの図(s チャネル・u チャネル)から Klein–Nishina 公式が導かれる。
\(\gamma\gamma \to e^- e^+\) や \(e^- e^+ \to \mu^- \mu^+\) なども QED の代表例である。
電子線にループで光子が付く図が自己エネルギーであり、 質量および波動関数の繰り込みを必要とする。
頂点に光子ループが付く図が頂点補正であり、 有効結合定数(電荷)の繰り込みや異常磁気能率 \(g-2\) に寄与する。
光子線に電子・陽電子ループが付く図が真空偏極であり、 有効電荷のスケール依存性(走る結合)を生む。
ゲージ不変性から導かれる恒等式 \[ q_\mu \Gamma^\mu(p',p) = S_F^{-1}(p') - S_F^{-1}(p) \] により、電荷の繰り込みが光子–電子頂点と電子自己エネルギーの間で整合的になる。
QED では「裸の電荷」 \(e_0\) は理論内部のパラメータであり、 実際に観測される電荷 \(e\) は繰り込みスキームやエネルギースケールによって異なる。
結合定数のスケール依存性は \[ \beta(e) = \mu \frac{d e}{d\mu} \] で特徴づけられ、QED では 1-loop で \(\beta(e) > 0\) となり、 高エネルギーほど有効電荷が大きくなる(Landau pole の存在)。
古典・ディラック理論では電子の磁気能率は \(g=2\) だが、 QED の 1-loop 頂点補正により \[ a_e \equiv \frac{g-2}{2} = \frac{\alpha}{2\pi} + \mathcal{O}(\alpha^2) \] が予言され、実験と驚異的な精度で一致する。
水素原子の 2S–2P 準位の微妙なエネルギー差(Lamb シフト)は、 電子自己エネルギーや真空偏極など QED 効果により説明される。